偉大なブランドの始め方


今日のゲスト、ジョアンからの質問を紹介しよう。

「私の質問は二つあります。一つ目は、私は本を読んで、自分が起業家であると認識しています。なので、マネージャーと職人となる人を雇う必要があります。彼らをどうやって見極めれば良いでしょうか?

ふたつめの質問は、これまで、熊のぬいぐるみを大手の店を通じて販売していましたが、売れ行きがそれほど伸びていません。新しい商品に切り替えようと思っています。しかし、在庫もまだあるので、新しいことを始めるか、これまでどおり続けるか悩んでいます」

まず、彼女のひとつめの質問に答えよう。これはとても大事なことなので、理解してほしい。私の本に書かれていることは、あなたに職人が必要、マネージャーが必要、ということではない。

重要なのは、あなたが3つの性格を持っていることを理解するということだ。あなたは職人であり、マネージャーであり、起業家なのである。問題は、大半の人は職人として目の前のことをやることに時間を使っているということだ。

だからあなたに必要なのは、毎日やっている仕事にラベルをつけることだ。そしてそれぞれの仕事をやるとき、これはマーケティング、これはファイナンス、これはオペレーション、これは社長の仕事、これはセールスマンの仕事というように、機能別にラベルをつけ、組織図にしていくことだ。

それをやりはじめるとわかるのが、自分はなにをやっているのか、よくわかっていないということだろう。多くの場合、組織図の一番下の仕事に大半の時間を使っていることに気がつく。つまり、経営の仕事をしていないことに気がつくだろう。そのときが、自分が置かれている立場に気がつくときだ。

ジョアンの質問に答えるならば、すべての人には、3つの人格が備わっていると理解することだ。彼女の仕事は、雇った人たちが彼女と同じように、3つの人格のバランスをとりながら働けるように環境を整えることだ。

次に二つ目の質問に答えよう。ジョアンはみんなと同じ間違いをしている。彼女は自分の夢を熊のぬいぐるみという商品に変えた。しかし、問題は、その商品は販売されるプロセスの中で、夢を失うということだ。

ジョアンは商品を販売しようとしていた。たくさん売るために、大きな店で売ろうとした。しかし、大きな店の中を見渡せば、その他の商品もある。そして問題が発生する。

“この熊は何故こっちの熊より良いのか?”

それを説明したいとき、ジョアンはそこにいない。店にいないのだ。すべてそこに問題がある。

つまり、彼女の最も大きな問題は、商品を店を通じて売ろうとしていることだ。店を通じてアイデアを売ろうとしている。それは出来ない。アイデアは、店を通じては伝わらない。なぜなら、アイデアを伝えるにはストーリーを伝えなくてはならないからだ。そのストーリーを店を通じて伝えるには、多額のお金が必要であり、大きなメディアを使わなければいけないだろう。

世の中に、偉大なブランドはたくさんあるが、その中で、他人に商品を売ってもらって偉大なブランドになったものはほとんどない。

ジョアンには、まったく別の方法を提案したい。熊のぬいぐるみを買う母親と直接つながることだ。独自の販売システムを作るのである。やり方はいくつかある。ひとつは、まずは自宅内で母親を招き、その熊のストーリーを伝えることだ。直接、母親に伝える。

それと同様にやっている、小さな容器を販売している会社がある。タッパーウェアだ。彼らは自宅で販売を始め、世界中に広がるブランドを作った。何故彼らは上手く販売できているのか?なぜなら、彼らは消費者に直接ストーリーを伝え、販売しているからだ。デモンストレーションするため、詳しく説明するために直接販売しているのだ。

ジョアンがやるべきことは、自ら母親たちに熊のストーリーを伝えること。そして、さらに、母親が子供たちに、そのストーリーを伝えられるようにすることだ。それによって、熊のぬいぐるみは単なる熊で無くなる。

そのうち、ぬいぐるみを自分で売りたいという母親も出てくるかも知れない。そうなれば、彼女たちがストーリーを伝える役目を担ってくれる。

重要なことは、商品でもなく、具体的なやり方でもなく、買ってくれる人と直接つながる、ということだ。偉大なブランドはすべてそのようにして作られた。すべての革命なブランドはそのようにして生まれる。

熊のぬいぐるみは子供のものだけに留まらず、母親の問題でもあるだ。母親はぬいぐるみを通じて、子供と会話をするきっかけを得る。母親の人生に何がかけているのかを理解してほしい。世界中の親子の間に何が欠けているのかを理解してほしい。それは家庭における子供の人格形成である。

人格とは何か?正しい生き方とは何か?それを見つける方法を、ぬいぐるみを通して、ストーリーを通して伝えよう。母親達にストーリーを伝える方法を教えるのだ。

そして、熊をきっかけにして、子供と会話する方法を教えるのだ。子供と面と向かって会話をできる母親は稀であり、それによって、大きな対価を強いられている。

親が子供に、人格について教えないために、世界中で子供たちの犯罪が起こっている。

ジョアンは、小さなぬいぐるみを通じて、その問題を解決するのだ。それが出来ると想像しよう。そうすれば、ジョアンのビジネスは、単に熊を販売することを超えるものになるはずだ。母親、子供に包括的なサービスを提供するものになるだろう。熊は、ジョアンのメッセージを伝えるメディアに過ぎないのだ。わかるだろうか?

人格とは何なのか?熊で遊んでいる子供は何もわかっていなくても良い。わかっていなくても伝わるようにすることだ。

それをやるには、他人の店で販売してはならない。アップルは決して他人の店に販売を任せたりしない。ストーリーが伝わらないからである。他人の店で販売すれば、途中で夢が失われるからである。

偉大なブランドは常にそのようにして作られてきた。商品を通じて、ほかの何かを伝えるのだ。

レイクロックが何を売っていたかを知っているだろうか?

彼はマクドナルドを世界中に広めたが、彼が売っていたものはハンバーガーではない。彼が売っていたものは、ビジネスチャンスだった。彼にとっての最も重要な顧客は、フランチャイズ加盟者だった。

通常、ビジネスをはじめる人はふたつのことを同時に求める。それは、安全と独立である。しかし、大半の人には、それが同時には手に入らない。安全を求めれば独立が手に入らず、独立を求めれば、安全ではなくなる。

だからレイクロックは、普通のスモールビジネスよりもはるかに上手く機能するビジネスシステムを作り、それをフランチャイズ加盟者に提供した。それによって安全と独立の両方が手に入るようにしたのだ。

人が安全と独立の両方を手に入れ、豊かに人生を送れる手段を提供したのである。ハンバーガーはそのための手段に過ぎない。ハンバーガーを通じて、豊かな人生を手に入れるためのストーリーを伝えたのである。

ウォルト・ディズニーは、単なるネズミを世界でもっとも偉大なブランドに変えた。彼はネズミのぬいぐるみを売っていたわけでもなく、テーマパークのアトラクションを売っていたわけでもない。大半の遊園地では、アトラクションが売り物だ。ほかよりも少し早いジェットコースター、ほかよりも少し怖いお化け屋敷。彼らが競っているのはそれだけである。

しかし、ディズニーは異なる。彼らはネズミを通じて、夢のある世界を創り出している。ねずみを通じて、人々に夢を持たせ、テーマパークをきっかけにして、家族に会話と交流を提供しているのだ。小さなネズミから、世界でもっとも壮大なブランドが生まれた。それはウォルトが単にネズミをネズミだと思っていなかったからだ。同じことがジョアンにも出来ない理由があるだろうか?ネズミではなく、熊ではいけない理由があるだろうか?

私の弟子のひとりに、マーティ・キャラハンという男がいる。彼は松涛館という空手道場を何年も運営している。彼は私のドリーミングルームに参加し、60歳にして、これまで彼がやってきたこと、考えてきたこと、成し遂げてきたことを越え、起業家的な機会を発見しようと考えていた。

そして、彼は発見した。空手を通じて、何を成し遂げるべきかを発見したのだ。

松濤館空手道場と普通の空手道場の違いは何か?

空手とほかの格闘技の違いは何だろう?

空手とは、入門してレンガの割り方を教わるためのもの。

大半の人はそう考えているが、マーティは、それだけではないことを知っていた。

彼が発見したことは、空手をも超えたものであり、松濤館空手をも超えたものだった。それが「リーダーシップ」である。

彼は単に空手を教えるのではなく、子供たちのリーダーシップを引き出すことに決めた。空手を通じて、子供たちが自らの人生を積極的に生き、選択できるようにする。

マーティーの言葉を使えば、リーダーになるのだ。

そうするためには、マーティーは空手の先生であることを止め、起業家にならないといけない。だから、彼はストーリーを伝えないといけない。

松涛館空手道場を始めたときに思い描いていたストーリーを伝えるのだ。60年間生きてきて学んだ知恵を伝えるのだ。

これを聞いている全員が同じことをしなくてはならない。

空手を空手を超えたものにする。

あなたの商品を、その商品を超えたものにするのである。

みんなに聞いて欲しい。

ジョウンは残念ながら、間違った方法で冒険を始めた。それに気がつくまでに何年も、何万ドルもかかった。

そして多大なエネルギーを費やした。

彼女の持っているものを理解できていない夫と議論になったことだろう。

最初に始めたとき、全く異なる方法で始めることも出来たのだ。

彼女がやっていたことが、今頃、全米中に広がっていたかも知れない道があり、それを進むことも出来た。

店を通じて他のぬいぐるみと競合することなく。

しかし、彼女は今日からスタートできる。彼女独自の学校を作るのだ。親しみやすい熊のぬいぐるみというオモチャを使って、子供達に必要不可欠なことを教える方法を、母親達に教える。子供たちは母親から人格形成を学び、そのうち子供を生めば、同じことを自分の子供に教える。そのようにして、熊のぬいぐるみから伝統が始まるのだ。

あなたは今ある商品を通じて、何を伝えるのか?どんなストーリーを世界に伝えるのか?どんな世界を作るのか?それを構想するところから偉大なブランドは始まるのだ。

マイケルE. ガーバー

マイケルE. ガーバー

米EMyth創業者、Michael E.Gerber Companies会長。世界No.1のスモールビジネスの権威(米INC誌による)。1977年に世界初のビジネスコーチング会社、マイケル・トーマス・コーポレーションを設立。その後、約40年間にわたって、7万社の中小・スモールビジネスをクライアントに抱える会社に成長させた。「E-Myth革命」や「会社をE-Myth化する」などの言葉が生まれるほど、世界中のスモールビジネスに変革をもたらしてきた。1985年には、初の書籍、「E-Myth(邦題:はじめの一歩を踏み出そう)」を出版。「起業家の視点(職人、マネージャー、起業家という3つの人格)」、「ビジネスのシステム化」、「フランチャイズプロトタイプ」、「ビジネス開発プロセス」などの新しい概念を提唱し、現在につながる、スモールビジネス経営の新しいスタンダードを創った。同書は、16カ国語に翻訳され、700万部以上のベストセラーとなっている。