京セラフィロソフィの「率先垂範(そっせんすいはん)」を読んだ。他人に求める前に、自らが模範として行動で示すこと。これは、日本的経営の極致であり、稲盛和夫氏の経営の根幹である。
一方で、マイケル・E・ガーバー氏は「Working on your business (経営を仕組み化すること)」を説き、経営者が現場(Working in)に入り浸ることを厳しく戒める。
私はかつて、この二つの思想の板挟みになり、クライアントへの伝え方に苦悩した時期があった。しかし、ガーバー氏自身、自らのプログラム「ドリーミングルーム」を誰よりも多く自ら実践していたという事実がある。一方で、彼はマニュアルに従うよう求めたが、彼自身の現場での振る舞いはマニュアルを超越しており、現場の実態を無視した過酷な要求を突きつけてくるという側面もあった。
真の仕組みは「現場」と「設計」の往復から生まれる
稲盛氏とガーバー氏、一見正反対に見えるこの二人の溝を埋めるのは「ダブルビジョン」という考え方だ。
経営者は、まず現場(Working in)で汗をかき、そこで「どうすればもっと上手くいくか」という成功の法則を見つけ出さなければならない。次に、それを誰でも再現可能な形に設計(Working on)する。しかし、そこで終わりではない。設計した仕組みを再び現場に持ち込み、機能するかを自分の目で確かめ、改善し続ける。この「イン」と「オン」の往復運動こそが、生きた仕組みを作る唯一の道なのだ。
ガーバー氏のドリーミングルームの失敗は、現場の集客状況を把握せずに無謀な計画を強いた、その「現場感覚の欠如」にある。自国で成功していないものを他国に強いる理不尽さは、組織の離反を招く。これは私にとって、重い教訓である。
言葉ではなく「背中」と「整合性」で導く
「率先垂範」とは、単に現場の作業を代わりにやることではない。現場の苦労と可能性を誰よりも深く理解した上で、最善の仕組みを示すことだ。
経営者が現場を知らずに数字上の計画だけを振りかざせば、メンバーの心は離れていく。逆に、現場に執着しすぎて仕組み化を怠れば、組織は拡大しない。リーダーに必要なのは、現場の痛みを共有しながらも、常に一歩引いた視点で「より良い仕組み」へと昇華させる、冷静な情熱である。
仕組み化の伝道師として、常に「現場の風」を感じ続ける
私が提供する「仕組み経営」のメソッドが、現場を無視した机上の空論になっていないか、常に問い続けなければならない。
クライアントに対しては、現場を離れる(Working on)ための勇気を与えるとともに、現場で汗をかく(Working in)ことでしか得られない「改善の種」を拾う重要性を、私自身の行動を通じて伝えていく。ガーバー氏から学んだ「仕組み」の価値に感謝しつつ、稲盛氏から学んだ「現場第一主義」の魂を融合させ、日本の中小企業に最も適した「血の通った仕組み」を構築していく。
